放浪の画家・山下清が、師匠と共に滞在した温もりの宿
「画家」「芸術家」が作品を残した宿①
三つの温もりに心底浸ってリフレッシュ
宿には、山下清のエピソードがいくつか残っている。
たとえばサイダーが好きだったが、栓を抜く「ポン」という音が怖くて、サイダーを開ける時は、部屋の隅っこで耳を抑えていた、など、山下らしく、胸がキュンとしてくる。
また、山下がスケッチに出かける際、宿で味噌をつけた焼きおにぎりを用意して、持たせたそうだ。今、その焼きおにぎりは、宿の名物料理「いろり献残焼(けんさんやき)」の締めに、食すことができる。
この宿には「辰巳館三温」という三つの温もりがある。一つは温泉の温もり、もう一つは炭火の温もり、そして、最後は人の温もりだという。晩年は視力の低下に悩まされたという山下だが、三つの温もりに包まれて、創造力をみなぎらせたのだろうか。
〈雑誌『一個人』2018年4月号より構成〉
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